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2007 summer vol.9 前の画面に戻る
 

8月1日に新作、
8月9・10日に古典と野村萬斎が二つの顔を見せる。
新作はシェイクスピアの「リチャード三世」を
狂言の手法で演出・主演する「国盗人」。
古典狂言は大名物の「文相撲」と夫婦物の「千切木」である。
狂言をベースにして、身体表現者として多様な可能性を
切り開き続ける野村萬斎に話を聞いた。
 


―なぜ今、シェイクスピアなんですか。

なぜなのか、その答えは舞台でお見せできればと(笑)。まず、シェイクスピアは饒舌なところもあるけれど、戯曲としては普遍性がある。イギリスに留学したとき、マクベスのワンシーンをグローブ座の芸術監督だったマーク・ライランスとそれぞれの手法でやったことがありました。様式的なやり方でやると、シェイクスピアは特性が出やすいことが分かった。そこでいつか、狂言の様式、手法でやってみようと思っていました。
   

―リチャード三世は悲劇ですが。

狂言はどちらかといえば喜劇で日常の一部分を切り取っていることが多いのですが、それを毎日のように演じているとバランス感覚として悲劇的、能的というか、スケール感のある舞台をやりたくなる。シェイクスピアは悲劇でありながら同時に喜劇的な要素もある。これを能役者がやると悲劇だけになってしまうけれど、狂言師は能の技術も持っていますから、どちらも表現できるぞ、と。
 

―リチャード三世という人物の魅力は。

悪い道化の代表かな。日常は理性で抑えているものを、彼は欲のまま突き進む。それは狂言的であって、見ている方にはある種のカタルシスがある。邪魔者は殺すというのはあまりに極端だけど、それをやるのが彼。
 

―そして、権力も女性も手に入れる。

王座を手に入れるまでは、ゲームで次々ボスキャラ倒していく感覚。王座に上り詰めてからは悲劇。戯曲はそこから饒舌になるから、退屈させずにどう面白く処理するか。省略すべきものは省略し、書かれてない部分を演劇的に肉付けしていくということを今、たくらんでいます。
 

―女性は白石加代子さんだけですが、もしかして石田幸雄さんがアンとか、女性を演じるんですか。

白石さんに4役を演じ分けて頂きます。シェイクスピアはどうも女性をよく書いていない。例えば私はマクベス夫人の死に様を納得できたことが一度もない。リチャード三世には4人の女性が出てきて、男と戦争に翻弄される女という構造もある。それを白石さんに集約することで、その構造がより鮮明に浮かび上がるんじゃないか、と。
   
 

―今井朋彦さん、大森博史さんという芸達者も楽しみですが、狂言師とどう絡むんでしょうか。

彼らがすり足とか狂言の様式でやるのは無理です(笑)。が、演出上の様式で機能していただければ、と。今回、リチャード三世側は狂言師、対峙する側は現代劇の方という構造でバランスをとろうか、と。

 

―衣裳はコシノジュンコさんですね。

外国で演じることを視野に入れているので。彼女も和のテイストをもって世界で勝負している。舞台も裸舞台に近いシンプルなもの。狂言にセットはいらない。
「ここは王宮です」。すると王宮になるのが狂言(笑)。言った者勝ちですから、その分、衣裳はしっかりと。

 

―演出プランは固まりましたか。

今、役者とワークショップをやっています。最初からこうだと決めつけて役者にやらせるのではなく、稽古をやりながら役者の体にききながら試行錯誤して作っていくのが僕のやり方。体を使いながら作らないとリアリティが出ない。あれだけ嫌がっていたアンがなぜリチャードになびくのか。字面だけ追っても納得できない。それを納得させるのが役者の体、演技です。
 
 

―最後に8月9・10日の古典について。

二つとも狂言らしい曲です。能楽堂で芸を見てもらうのにふさわしい。「文相撲」は、大名が相撲を取るのにマニュアル(文)を見ながら取って、負けちゃう。「千切木」のほうは、連歌の会で悪態をついて袋叩きにあった夫を、奥さんがけしかけ、励まし、仕返しに行く。その仕返しがまことに珍妙で、おかしい。前半の悪態をつくところも見どころですね。お楽しみに。

 

取材・文/阿部聡 写真/小林和幸


のむらまんさい
狂言師。1966年東京都生まれ。野村万作の長男。東京藝術大学音楽学部卒。『狂言ござる乃座』主宰。国内外の狂言・能公演はもとより、現代劇や映画の主演、NHK「にほんごであそぼ」に出演するほか、古典の技法を駆使した作品の演出など幅広く活躍。94年に文化庁芸術家在外研修制度により渡英。芸術祭新人賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞等を受賞。世田谷パブリックシアター芸術監督。

 


 
 

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