25年が過ぎて見つけた25の話 #23
25の話「新潟から世界へ」の必然④
坂内 私自身、開館から15年以上経ってからりゅーとぴあの職員になったこともあり、外からりゅーとぴあを見ていた期間の方が長いわけです。Noismが設立されたときも一市民として、公演を観にきました。“25の話「新潟から世界へ」の必然③”で専門ホールには専門集団をという考え方は開館前からあったと触れましたが、りゅーとぴあのメインホールはコンサートホール=オーケストラ専用ホールであり、開館前に、新潟市民からプロオーケストラ設立の要望もあり、市も検討していたように記憶しています。ただ恐らく予算の関係もあり、オーケストラ設立には至らなかった。ですから、Noismが設立されたとき、なるほど10数名の専属舞踊団なら専門集団として新潟市に適していると思いました。
富永 私がいいなと思うのは、Noismのダンサーたちが新潟に住み、新潟の水や空気を吸って、地元の人に支えていただきながら活動しているところです。商店街のアーケードをぶらり歩いているダンサーを時々見かけますが、舞台上で見せるキレキレの動きとのギャップに萌えますね。
石川 公立文化施設を本拠地として活動するオーケストラはありますが、Noismの場合はメンバー全員が新潟に住んで創作・発信していますから、このこと自体が稀有ですね。
坂内 Noism初公演の2004年『SHIKAKU』を観に来て、衝撃を受けました。それまではコンテンポラリーダンスを見て感動することはなかったのですが、目の前を通り過ぎる鍛え抜かれたダンサーたち、作品の構成力に圧倒され、虜になりました。金森穣さんが言う「世界発信」も本気だな(笑)と思いました。Noismはそれ以来、ほとんどの公演を見続けています。
富永 ヨーロッパ一辺倒ではなく、東洋の身体性とうまく融合しているところが個性的です。日本の、新潟のNoismが世界で勝負するのに、オリジナリティはやっぱり大切ですね。
坂内 新しい文化が生まれるときには、“熱狂の人”が存在するというのもWorkshopで学んだことの一つなのですが、Noismで金森穣さんと仕事をしながら思うのは、穣さんはまさに“熱狂の人”。“信念の人”とも言えます。その信念についていくのは大変ではあるのですが(笑)。
日本の芸術団体は首都圏一局集中です。ですから地方都市の劇場は首都圏から公演を買うのが中心。地方で創造した作品を世界へ発信なんて、普通は考えないと思うのです。外から見ていたときも『りゅーとぴあと言えばNoism』と高く評価していました。
石川 海外では公共ホールを本拠地にしたバレエ団がありますが、日本国内ではNoismだけです。未だに追従するカンパニーは現れませんが、やはり難しい面があるのでしょうか。
坂内 穣さんのように長いスパンでの考え方をできる方がそれほど多くはないというのも一因としてあると思います。Noismも設立20年を迎えるまで険しい道のりを歩んできました。ただこの20年着実に成果をあげてきたということは言えると思っています。
“熱狂”というのは一時の興奮のようなもので、長続きしないことも多いと思います。穣さんのように“信念”として貫くまでになるのは容易ではない。ただ、今のりゅーとぴあに足りないものはこの“熱狂”ではないのか。市民もスタッフも開館時の興奮、理念を思い出したり、学び直したりすることで、りゅーとぴあには何が必要なのかを考える時期に来ているような気がします。
時代も、りゅーとぴあを取り巻く環境も変わり、ソフトを重視した運営というのはどんどん厳しくなりつつあります。ただ、ハコモノで終わらせないためには、これからもソフト=中身を重視する必要がある。専属舞踊団であるNoism含め、中で働く人材が生き生きとしていることが大事だと思います。
富永 一昨年りゅーとぴあは日本建築家協会から25年賞という賞をいただきました。審査員の講評の中で「りゅーとぴあは次代の人材を生む孵化器となっている」と評価していただきました。金森穣さん率いるNoism、新潟市出身のオルガニスト石丸由佳さんをはじめ、ジュニア音楽3教室や子どもの劇団APRICOTの卒業生など、たくさんの人材を輩出してきました。
石川 りゅーとぴあから羽ばたいた人々が、さまざまな形で社会に貢献し豊かにしているとしたら、こんなに嬉しいことはありません。これからも私たちは、孵化器としての役割を折に触れて思い出していきたいですね。
坂内 りゅーとぴあが卵型なので、建物を見るたびに思い出せそうですけどね(笑)。
25の話#23 新しい文化が生まれるときには、“熱狂の人”が存在する。
坂内佳子さん(事業企画部舞踊企画課長)
富永広紀さん(事業企画部広報営業課長)
「新潟から世界へ」の必然 完
【編集後記】
おふたりとも知的でクール、時には熱く語ってくれました。りゅーとぴあを俯瞰する視点はさすがと思いました。一緒に仕事をすると刺激をもらえます。
<< | < | #23 | > | >> |