『深闇、郷に還る』プロジェクト、本格始動!「役者自身が考え、挑戦する」密度の濃い稽古

2025年12月5日、『深闇、郷に還る』の稽古がりゅーとぴあで始まりました。オーディションで選ばれた新潟の演劇人と、脚本・演出の中村ノブアキさん、田中角栄役の狩野和馬さん、事務所スタッフ・平河敦美(ひらかわあつみ)役の福田真夕さん、舞台スタッフたちが2月の上演まで毎週末集まり、試行錯誤しながら芝居を作ります。初顔合わせから本読みまで、稽古の現場を紹介します。(2025年12月5日、7日、13日取材)
(取材・文/本間千英子)
【稽古初日】
「田中角栄記念館」を訪れた人も!
準備して初稽古に臨んだ新潟の出演者たち

稽古初日はこの舞台に関わるメンバーの顔合わせがメイン。「新潟の方たちとしっかりお芝居ができることにワクワクしています。『闇の将軍』シリーズで最高の作品を作りたい」と狩野さん。福田さんは「新潟のみなさんとの舞台作りを楽しみにしてきました。こんなに毎週、新潟に来るのは初めて。おいしいお店とか教えてください!」と笑顔。
「田中角栄記念館」を訪れ、「角栄について学んだ」と話したのは、全越山会婦人部長・山村シズコ(やまむらしずこ)役の平石実希さん、小千谷越山会総務会長・五十嵐一江(いからしかずえ)役の大作綾さん、大木建設社長で長岡越山会事務局長・大木三郎(おおきさぶろう)役の田村和也さん。角栄の関連本も読んでいるそうで、オーディション合格直後から役作りをしてきたことが分かります。

一江の実妹・星野昭子(ほしのしょうこ)役の先川史織さん、三郎の娘・大木雅美(おおきまさみ)役の三浦真由さんはそれぞれ新潟で社会人劇団に所属しています。「以前からの演劇仲間や、初めてお会いする新潟の演劇人と共に芝居を作るのがとても楽しみ」と意欲を語りました。
昭子の息子・星野功(ほしのいさお)役の渡部翔さん、全越山会青年部長・梅津真一(うめづしんいち)役の大田雄磨さん、中森長岡市長の秘書・込田建造(こみたけんぞう)役の遠藤駿さんは、「出演者やスタッフから多くを吸収し、形にしていきたい」と緊張の面持ちながらやる気十分。

長岡市長・中森公太(なかもりこうた)役の荒井和真さん、南魚沼越山会会長・富田康夫(とみたやすお)役の服部正史さんの二人は、出演する秋葉区の市民ミュージカル『走れ!ロコモーション』の公演日程と重なったため初稽古に参加できません。中村さんは「これから一緒に芝居を作る仲間の舞台なのだから、都合のよい人は明日の夜、公演を観劇し、声援を送りませんか」と提案。多くの役者から「行きます!」と元気な声があがりました。
アドリブもトライアルも大歓迎!
意見交換とディスカッションを重視
稽古を始めるにあたり、中村さんは「稽古中の役者の在り方」について語りました。

「僕は一方的に指示や命令をするタイプの演出家ではない。ぜひ自ら率先し、稽古でいろいろ試してほしい。ここにいるメンバーの一人一人がクリエイター。だれもがフラットな関係です。大いにディスカッションし、発言してください」。
中村さんの言葉に、役者たちの表情にも気合が入ります。
JACROW(ジャクロウ)の稽古は、最初に中村さんが台本を声に出して読み上げるのが恒例です。それは、役者たちに初見のお客さまの気持ちを体験してもらうため。台本はまだ途中段階。東京・目白の田中邸で新潟から陳情に訪れた越山会の会員たちとのやりとりと、田中角栄が総理大臣を辞任するまでの1場を中村さんが読み終わると、初稽古は終了時間になりました。
【稽古3日目】
エクササイズで心身をほぐし
コミュニケーションを図る

次に取材したのは稽古3日目の12月7日。
前日の稽古では能楽堂を見学後、『深闇、郷に還る』と同時期に東京で行われていたことを描いたシリーズ第3話『常闇、世を照らす』の動画を鑑賞。希望者で荒井さん、服部さん出演のミュージカル『走れ!ロコモーション』を観劇し、その後は深夜まで大いに飲み、食べながら演劇談義をした役者とスタッフたち。メンバー同士の距離がぐっと縮まったことが、稽古前の会話から感じられます。
本読み前にウォーミングアップとして、役者とスタッフが日替わりで講師を務めるエクササイズを実施します。この日の講師は平石さん。手のひらをこすって温め、体の形を確認するように自分の全身を両手で触り、靴を脱いで足裏に床を感じながらゆっくりと、均一に体重を移動するよう意識して歩く練習です。「なかなか難しいね」と言い合いながら、みんな真剣に取り組んでいました。

演出家から次々と問いかけが!
時代背景を調べ役の人生を創造する
体がほぐれ、気持ちもリラックスしたところで、本読みに移ります。
手にした扇子をせわしなく動かしながらセリフを言う狩野さんと視線を合わせ、身振り手振りで会話する役者たち。


セリフごとに中村さんから、
「目白御殿の池の広さは?鯉は何匹くらいいると思う?」
「大好きだけど雲の上の人でもある角栄さんに何かをお願いする時、どんな話し方をするかな?」
「家族の関係はいいの?悪いの?」
「土建業はどんな仕事で、新潟ではどういう所で仕事をしますか?」
など、役者それぞれに質問が飛びます。
登場人物の人生を詳細に設定する脚本家もいますが、中村さんは役者自身に考えさせるスタイル。『深闇、郷に還る』の舞台は昭和40~50年代です。「当時の日本で、新潟でどんなことが起こっていたか、まずは事実を調べる。その上で、自分の役のドラマを作ってほしい。次回の稽古までの宿題です」と中村さん。
演技テクニックを丁寧に指導
求められるのは柔軟な対応力
中村さんは、演技のテクニック面への注意やアドバイスもします。「セリフを大事にする人にありがちだけど、語尾を飲み込む癖がある。自分の覚悟の強さを角栄に訴えるシーンだから、語尾を相手に投げつけるようにした方がいい」と指導された梅津役の大田さん。

その後、セリフの発し方がガラリと変わり、「いいね」と中村さんは満足の表情。

「自分が経営する建設会社に大きな仕事を回してくれる角栄は、いわば最重要クライアント。少し媚びへつらう感じを出してみては」と言われた大木三郎役の田村さんは、落ち着きのない表情や見上げるしぐさを加えて表現します。

他にも、
「セリフは区切らず、ひと息で言い切るとグルーヴとリズムを生み出しやすいのでやってみて」
「強調したい言葉を強く発することを僕は『立てる』と言うんですが、『辛抱』という言葉を“立てて”言ってくれますか」
「田中角栄を記者会見で追いつめるシーンの記者たち、セリフを20%スピードアップして、たたみかけて」
など、次々とリクエストする中村さん。即座に応えられる役者たちの姿に、確かな演技力と対応力を感じました。
この日の稽古は朝10時から午後5時まで。昼食休憩時、自主的に「ランチミーティングしよう」と集まって話し合うグループや、短い休み時間にも疑問点を中村さんに直接尋ねたり、参考図書や当時の新聞記事を読み込んだり……。役者全員の熱意と集中力に圧倒された1日でした。
【稽古5日目】
セリフを長岡弁に変換
生々しい陳情場面が展開
稽古5日目の12月13日、夕方の数時間、取材をさせていただきました。稽古場に入ると、ちょうど富田康夫役の服部さんと、山村シズコ役の平石さんが田中角栄に陳情するシーン。見事な長岡弁でぐいぐいと角栄に迫ります。
「この二人、いいコンビですね」とうれしそうな中村さん。

「かなり意訳してセリフを長岡弁に変換していますが、大丈夫でしょうか?」という平石さんに、中村さんは「どんどんやってください」と背中を押します。

長岡弁のイントネーションを声に出して確認する服部さんと平石さん。時には録音することも。
複雑な感情を抱えた登場人物たち
揺れ動く心を表現する工夫
小千谷越山会総務会長・五十嵐一江と、その実妹で、息子・功の就職を田中角栄に頼んだことから越山会入りした星野昭子の姉妹が言い争うシーンでは、最初、五十嵐役の大作さん、昭子役の先川さんは大声で勢いよくやりあっていました。


中村さんはいったん二人を止め、「会話劇は、100%一つの感情に偏った者同士の話し合いじゃない方がいい。五十嵐さんも昭子さんも、心の中に迷いがあるはず。そういう二人のケンカの場合、テンポよく怒鳴り合わない方がリアルに見えます」。そう言われた大作さん、先川さんは「村人が通る道のような場所で、人目を気にしながら言い争っている」という設定を考案。ところどころ声のトーンを落とし、言葉と言葉の間を長めにとるなどして演じました。

休憩に入ってすぐ、五十嵐姉妹役の大作さん・先川さんは顔を合わせて打合せ。議論を交わしてキャラクターを掘り下げる。

稽古場ではさまざまな実験も。写真は結婚披露宴での台詞を読むために両家ご挨拶風に並んでみたところ。
取材の最後、中村さんにここまでの稽古の手応えを尋ねました。
「稽古を重ねるごとに、全員が生き生きとしてきますね。前向きで一生懸命な人ばかりですから、自分の役になりきるのも早い。みんなで必ずいい舞台にします」
次回は、本番の舞台である能楽堂での稽古をレポートしますのでお楽しみに。







