能舞台の構造を最大限に生かした立ち稽古 ‟鉄の団結“で本番までラストスパート!

今回は公演まで残り一ヶ月を切った1月10日、11日の稽古の様子をご紹介します。能楽堂の能舞台で音響や照明も入れた立ち稽古は、スタッフ、キャストとも真剣そのもの。一方、休憩時間には全員が笑顔で会話を交わす、和気あいあいの雰囲気。チームとして絆が深まっていることが伝わってきました。(2026年1月10日・11日取材)
(取材・文/本間千英子)
演出家のフィードバックに即座に応えられる対応力!
1月10日、能楽堂の楽屋に集合したスタッフ、キャストの面々。全員で輪になり、狩野和馬さんがレクチャーする稽古前のウォーミングアップからスタートです。


特定の言葉と体の動きを組み合わせた楽しいゲームが行われ、ユーモラスな動きに笑いが起こりました。
続いて能舞台に移動し、立ち稽古開始。

田中角栄役の狩野さんが登場するファーストシーンから順にやっていきます。
「もう少し舞台は暗くてもいいかな」
「ここにSE(効果音)をいれてください」
など、気がかりなことや気付いたことをその都度、りゅーとぴあスタッフの舞台監督や照明、音響担当と相談する中村さん。

「インパクトがほしいから、大きなリアクションで驚いてほしい」
「このセリフはもっと真面目に」
「時代劇の悪代官同士っぽく言葉を交わし合ってください」
「芝居の嘘で、客席に向かって演説して」
など、役者にも細かく指示が飛びます。客席の演出スペースから声をかけるだけでなく、中村さんはしばしば舞台に上がり、自ら演技をして役者に示していました。


客席から見て舞台の柱に役者が重ならないよう演じる位置を工夫したり、登場と退場の仕方も能舞台の特徴を生かしながら決めたりと、稽古は緊張感を持って進められます。全員椅子に座ったらどんな感じになるか、早足で舞台まで出てみる、椅子の後ろを歩いてハケてなど、中村さんはシーンごとに細かく演出を組み立て、指示を続けました。


この日の稽古で特に印象的だったのは、小千谷越山会総務会長・五十嵐とその妹・昭子が互いの気持ちをぶつけ合うシーンです。
二人が能舞台の切戸口から登場してセリフを言うにあたり、中村さんは「昭子さんを五十嵐さんが追いかける、鬼ごっこしているみたいにして、最後はこの位置でやりあってほしい。客席から見て二人が重ならないよう、二人芝居の場合は話す位置を意識して」と指示。

五十嵐役の大作綾さんと昭子役の先川史織さんはその場で相談し、お互いどう動くか確認。その後は中村さんの言葉通りに歩き回りながら演じ、向かい合って話す位置もぴたりと決めました。


他のメンバーもですが、中村さんのリクエストにその場で対応できる理解力・演技力と柔軟性には驚くことばかり。この日は2場の途中までを稽古し、最後に総括として役者それぞれに中村さんがセリフの言いまわしや表現方法を具体的に細かく指摘して終了しました。
キャストやスタッフの意見も演出に反映する!
1月11日は最初の1時間、能楽堂の楽屋で新潟の出演者たちが衣装合わせをしました。

場面ごとの衣装を身に着け、中村さんがチェック。OKになると記録写真を撮影します。


その後は能楽堂の舞台上でウォーミングアップ。この日は先川史織さんが担当しました。アップテンポの曲に合わせてボクシングのパンチとキックをひたすら繰り返します。


「けっこう疲れる!」「血圧が上がったかも」などと言いながらも元気に動くメンバーたち。20分ほどエクササイズしてから、軽くストレッチをして終わりです。
立ち稽古は前日の続きの2場途中から始めます。昨日同様、中村さんは役者たちに動きやセリフの言い方など丁寧に指示。
「歩くのをちょっとスローダウンして」
「そのセリフの間はカットしてひと息でしゃべってください」
「角さん(田中角栄役の狩野和馬さん)が入ってきたら驚いて椅子から転げてみますか」
など、中村さんの指摘に応えて役者は演技を変え、何度も繰り返します。
夕食休憩後は1、2場を通しで稽古しました。照明、音響、字幕投影も入れ、本番さながらに展開。



終わってから、
「笑顔になりすぎている。この場面は緊張してほしい」
「終始楽しそうだけど、ここは少し怒った顔で」
「音楽が流れてから少し間をとって動き出してください」
など、中村さんが一人一人に細かくオーダーを伝えます。

スタッフやキャストも意見を出します。舞台で使う「南魚沼越山会」の縦書き看板を、「お客さんがしっかり認識できるよう、いったん立てて置く時間をとってはどうか」と提案したのは全越山会婦人部長・山村シズコ役の平石実希さん。中村さんは「いいと思います」と採用しました。演出助手の三浦真央さんは、舞台上で3人の役者が共演する場面が「横並び一直線になっていて、サイドから見ているお客さんには面白くない。立ち位置や動きを工夫してみては」と提言し、中村さんは「そうしましょう」と即答。「JACROWは演出家が一方的に指示するのではなく、みんなで話し合って芝居をつくっていく」と12月の稽古スタート時に中村さんが語っていたのはこういうことか、と納得できました。
能楽堂での立ち稽古で、スタッフとキャストが細部まで気を配り、熱意を持って取り組んでいる姿を見て、本公演への期待がますます大きくなりました。
田中角栄と彼を支えた越山会の新潟人たちがどんな運命をたどるのか――。『深闇、郷に還る』の本番で見届けてください!
新潟の役者たちが目指すもの
稽古の合間に、新潟の役者さんたちにこれまでの稽古についてと、本番で目指すことを話してもらいました。その一部をご紹介します。
南魚沼越山会会長・富田康夫役 服部正史さん

演出家のフィードバックが非常に分かりやすく、演じやすい。私の役は越山会をまとめ、田中角栄をどういう状況でも応援する、理屈で割り切れない部分があることを感じています。越山会の新潟人として、言葉にできない気持ちとセリフを肉体化し、本番に臨みたいです。
全越山会婦人部長・山村シズコ役 平石実希さん

稽古を通し、演劇という手段で思いを伝える時に出自や優劣に捕らわれる必要はないと学びました。今まで出会った新潟の女性たちの集合体が私の演じる山村さん。新潟人にとって違和感のないニュアンスを工夫して創作した「深闇弁」にセリフを変換しました。演出を信じ、能楽堂という空間になじむように演じられたらと願っています。
小千谷越山会総務会長・五十嵐一江役 大作綾さん

東京でプロの演劇人として活動している方たちと稽古ができるのはありがたい。これは私自身の役者人生や、不定期にいただく舞台演出や音楽活動の仕事に必ずプラスになると思います。最終的には台本に囚われず、五十嵐さんとして舞台で生きられるよう頑張ります。
長岡越山会事務局長・大木三郎役 田村和也さん

私が演じる三郎は利益だけでなく情でも田中角栄に結びついています。私も、信じたり好きになったりする人に理論を脇に置いて肩入れする性分で、そこが役と通底している。みんなで一つの作品を作っているので、本番が終わったらみんなで一緒に喜びたいですね。
全越山会青年部長・梅津真一役 大田雄磨さん

僕が演じる梅津は良く言えば積極性があり、悪く言えば和を乱す人。稽古では「明智光秀みたいなキャラクター」「松岡修造みたいな熱血漢」と言われたりしました。梅津をどう思うかは見る人次第ですが、舞台で彼の二面性が出せていけたらいいと思っています。
星野昭子役 先川史織さん

自分で役柄を考え、仕掛けていくのは俳優の楽しみの一つ。稽古でそれができるのでやりがいがあります。格式ある能楽堂という場所で、役柄としても俳優としてもどっしりと重心を置いて舞台に立てるように頑張りたいです。
星野功役 渡部翔さん

能楽堂は特別な場所に立っている感覚がします。最初のうち、稽古では「こういうふうにやろう」と考えた演技をしていましたが、今では相手役との会話で生まれる、その時だけの気持ちや表現が大事だと気付きました。本番でもそれをお客さんに届けたいです。
込田建造役 遠藤駿さん

1ヶ月間稽古をして「芝居がうまい」というのは対応力が高い人だと分かりました。僕は今、役の込田くんと日々「話し合っている」段階。本番の舞台で込田くんがこのドラマを生ききってくれたとお客さんが思ってくれるよう、ちゃんと演じたいです。
大木雅美役 三浦真由さん

これまでは役者それぞれが役に向き合い、個々で頑張っていましたが、これからはチームで力を合わせて本番まで作品を盛り上げていく期間。昭和という時代に、角栄を応援した新潟人たちの熱気と同等に、活動的で熱いものを持った雅美ちゃんを舞台で見せたいです。
長岡市長・中森公太役 荒井和真さん

いろんな地元劇団の人が集まって舞台をやるのはなかなかない機会で貴重です。私の役は長岡市長ですが、悪役なのか明確ではないところにやりがいがあります。役に完成形はありません。本番でどうなっているのか、自分自身、楽しみにしています。







