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Special interview アンドリュー・マンゼ(中編)

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11/16(水)開演、NDR北ドイツ放送フィルハーモニー交響楽団 で指揮を務める名匠アンドリュー・マンゼ。インタビュー<中編>をお届けします。マエストロと長くともに歩んできたこのオーケストラの魅力や、今後演奏してみたいプログラムなどをお聞きしました。

こちらのインタビューは、前編・中編・後編の<中編>です。

オーケストラについて

ーベートーヴェンの交響曲第3番においてカオスとその解決、とおっしゃいましたが、コロナの間、皆さんもとても厳しい時期を過ごされたと思います。そしてその期間に多くの録音も出されています。改めて、オーケストラとのこれまでの期間は、マエストロにとって、如何でしたでしょうか?

M(マエストロ・マンゼ以下M):今回のパンデミックを通して私とオーケストラの関係はより一層強いものとなりました。私の自宅はスウェーデンにありますが、パンデミックの間のほとんどに期間をドイツで過ごし、オーケストラと一緒に演奏活動をしていました。本当にラッキーだったと思います。と言うのも、多くのオーケストラ、特に合唱団は演奏活動ができずにいたことをよく知っています。でも私たちは運よく放送響であったことから、放送を通しての演奏活動が続けられたのです。私たちの聴衆はラジオの向こうで聞いてくださる方々だったのです。でももちろん初めの頃は皆さん同様、演奏家は全員マスクをしていましたし、ディスタンスと取っての演奏でした。何しろ、最初の演奏は、確か、5人で行いました。距離をしっかりとらないといけませんからね。そんな感じで規模の小さいオーケストラ作品から演奏することとなりました。これが結果的にオーケストラにとっては良い経験となりました。大編成のオーケストラよりも少人数のオーケストラの方がより一人一人の技量が磨かれますし、距離があるからこそ聴く力が鍛えられました。このような特殊な状況でしたので、どんな音楽が演奏できるのか考察を重ねて、今までに演奏したことのなかったような作品にも挑みました。それからもう一つとても運の良いことがありました。それはご存知のようにパンデミックは2020年に、それもベートーヴェン・イヤーに始まりましたが、私たちはパンデミックの前にベートーヴェン・イヤーのために企画した音楽祭(フェスティバル)を終えていたのです。多くの楽団が演奏する機会を逸したことを考えたら、本当に運の良いことでした。私たちはフェスティバルを2019年に始めていて、交響曲全曲、協奏曲全曲演奏できたのです。ベートーヴェンのお祝いをみんなですることができたのです。そしてそのベートーヴェンの後でパンデミックとなり、今までとは異なるプログラムに取り組みました。本当に運が良かったですね。

 

ーマエストロから見た、このオーケストラの魅力について、お教え頂けますか?

M:ハノーファーを拠点とするラジオ放送響であるNDRは、名前の通り北ドイツのオーケストラであり、今まで、何度も日本に伺っていますが、その折には必ずクラシック音楽を演奏してきました。でもオーケストラ自身は一か月に1週間ほどは、クラシック音楽以外のレパートリーを演奏します。それはバロック音楽、古楽だったり、ジャズや映画音楽だったり、そして時にはポップスも演奏します。このような活動を通して、オーケストラは素晴らしい柔軟性を培うことができました。これはオーケストラにとって価値のあることです。異なる様式に対する認識力が優れているのです。オーケストラによっては、自分たち独自の音を生み出し、それをあらゆるレパートリーにおいて用いることがあります。でも、私がNDRでとても好きなところは、彼らがレパートリーによってふさわしい音色を生み出すことができるところです。画一的ではないのです。モーツァルトならモーツァルトの音色、ベートーヴェンならベートーヴェンの音色を、ブラームスの音色、現代音楽でも、彼等ならそれぞれの音楽において求められるすばらしい音色で奏でられるのです。実は今日(9月17日)、私たちはホルストの『惑星』を演奏します。英国で作曲された広大なる交響曲で、大編成のオーケストラによって演奏されます。SFを連想させるような様々な音色、きらめくような音とかが次から次へと出てくる作品です。ベートーヴェンとは大きく違います。つまり、このオーケストラの素晴らしいところは、この作品にはどんな音色が良いのか、常に考えているところなのです。ですから私のこのオーケストラは、今日はベートーヴェン、明日は全く違うレパートリーを演奏できて、聴いた人が「これって同じオーケストラ?」と思うほどそれぞれの様式を表現できるほどその音色は柔軟性に富んでいるのです。それからもう一点、これは私にとってとても大切なことなのですが、今回、日本に伺って同じプログラムも何度か演奏しますが、私たちは決して同じコンサートを10回繰り返すのではなく、それぞれの聴衆のためのコンサートを行い、それが結果的に10回ある、と言うことをとても大切にしていると言うことです。それぞれのコンサートは聴衆にとって特別なものであり、私たちにとっても特別なものです。それぞれのホールの音響も違えば、聴衆の方々も違う方々です。もしかしたら、オーケストラ音楽を今までに一度も聴いたことがない人がいるかもしれない、とか、ベートーヴェンの交響曲を初めて聴いたのかもしれない、とか、そのように考えて、どのコンサートも特別なものでなくてはならないと、常に自分に言い聞かせ、実践しているのです。それぞれのコンサートで私たちが生みだす音は、そのホールの音響、そして聴衆の皆さんがいらしているからこその音色であり、特別なものなのです。私はオーケストラに、かくあるべきだし、必ずこのようにしなさい!と言うタイプの指揮者ではありません。まずはそのホールの雰囲気を感じ、そして聴衆を感じながら音楽作りをしていきます。これは特にツアーでは大切なことです。楽団員にも、「昨日と同じ曲を演奏するんだな」なんて、決して考えないように、と話しています。今日のコンサートは、新たなる、特別なコンサートなのです。これこそが私が最も大切にしていることです。
実は私自身、コンサートに行くのが大好きなんですよ。ですから、もし指揮をしていないなら、きっと聴衆の中に座っていますよ。だから私自身が聴衆の1人として十分に楽しめるコンサートにしたいし、そうでなければなりませんね。

 

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(C) NDR, Foto N. Lund

 

ーでは今後、この柔軟性に溢れるオーケストラと演奏したいプログラムをお聞かせください。

M:私どものオーケストラは総勢82名ほどの、オーケストラとしては決して大きくはないオーケストラです。でもそれだけに大作をやりたいと言う気持ちがあります。今日もホルストを演奏するにあたって、10~15人ほどのメンバーを迎えて演奏します。その大きい作品で是非やりたいものが2つあります。1つがブルックナーです。ブルックナーは指揮者の朝比奈さんのおかげで、日本でも愛されている作曲家だと聞いています。でもヨーロッパの一部の地域では、驚くべきことに、ブルックナーは全く興味を持たれていないのです。私はブルックナーが大好きです。彼が大きなキャンバスに壮大な絵を描くかのような音楽が大好きなのです。確かにちょっと忍耐が必要なところもありますけど、その価値はあります。ですからNDRとは是非ブルックナーに挑みたいのです。特にNDRにはブルックナーの伝統がないのでゼロから始めなくてはなりませんが、そこがまた良いのです。常にどうしたらよいか、熟慮して演奏します。ヨーロッパのオーケストラによっては伝統的に積み上げてきたブルックナーの音があり、そこから逸脱するのがとても難しいこともあるのです。私は彼らが40年前に演奏したものに興味はありません。私たちが今日の聴衆のために、今日どのような演奏をするのか、が大切なのです。今の演奏会に来る方々は40年前を生きている人たちではないのです。今を生きていらっしゃるのです。もう1人、ブルックナーと並んで言及される作曲家がマーラーですが、私はやっぱりブルックナーに一票ですね。(笑)日本の指揮者の方のブルックナー演奏には面白いものがありますよ!それだけに日本の方とブルックナー談議ができたら嬉しいです。

インタビュー 後編 につづく

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