三間四方の空間に描き出される、名も無き庶民の悲劇。

内容

舞囃子「養老（ようろう）」　　　小倉伸二郎
仕舞　「田村（たむら）キリ」　　大友　順
仕舞　「柏崎（かしわざき）道行」髙橋　章
狂言　「地蔵舞（じぞうまい）」　山本泰太郎
能　　「藤戸（ふじと）」　　　　金井　雄資

能「藤戸」

※この公演は2020.5.9(土)「春の能楽鑑賞会(宝生流)」の振替公演です。

2021年のお能初めに「名作」尽くしの公演をお届けします。

旅の僧がご禁制を知恵と機転で軽やかに切り抜けてしまう愉快な狂言「地蔵舞」で、まずは笑い初め。平家物語に題材を取った能「藤戸」は、華々しい合戦の勝利者ではなくその陰で犠牲になった庶民の存在を浮かび上がらせます。個人の力だけではままならぬコロナ禍の時代に生きる私たちにも強く訴えかける「名作」を、ご堪能ください。

あらすじ

舞囃子「養老」

美濃（みの）の国に湧いた「養老（ようろう）の滝」と呼ばれる不思議な泉を調べにきた勅使は、樵（きこり）の親子から泉の名の謂（いわ）れとその霊験を聞きます。帝に良い報告ができると喜んでいたところに、天から音楽が聞こえ山神が登場し、颯爽と舞を舞って天下泰平を祝福します。

仕舞「田村 キリ」

東国から清水寺を訪れた僧が、花守の少年に寺の来歴を尋ねます。少年は建立の経緯や近隣の名所を語り、僧とともに春の宵を楽しみます。実は少年は坂上田村麻呂の化身であり、後に夜通し経を読む僧の前に現れ、帝の勅命による合戦の様子を語り、観音の御力をたたえて勇壮に舞います。

仕舞「柏崎 道行」

越後国柏崎で訴訟のため鎌倉に上った夫の留守を預かる妻の元に、夫の病死と、同行していた息子花若の出家の知らせが届きます。悲しみのあまり妻は心乱れ放浪し、やがて信濃の善光寺にたどり着きます。そこで僧の引き合わせにより、偶然にも善光寺に身を寄せていた花若とめぐり逢うのでした。

狂言「地蔵舞」

旅の僧が一夜の宿を頼んだところ、往来の者に宿を貸すことが禁じられているからと家の主人に断られます。ならば自分がかぶっている笠だけ一晩預かってほしい、と僧は主人に笠を託します。主人がその傘を座敷に置いておくと…。

能「藤戸」

藤戸の先陣の功によって備前の児島(こじま)を賜った佐々木盛綱は、訴え事があれば申し出よと領民にお触れを出します。そこに老女が現れ、息子の漁師が口封じのため盛綱に殺されたと訴えます。一度は否定した盛綱も、老女の厳しい追及に事の顛末を告白すると、老女は半狂乱になって自分も殺せと迫ります。盛綱は息子の回向を約束して老女を家に帰し、藤戸の海辺で弔いを行います。するとその声に引かれて漁師の亡霊が姿をあらわし…。