【木ノ下裕一の能楽てらす】vol.2「道行ワークショップ」

performance

道行ワークショップ ~古典の視点でまちを歩き、作品づくりを体験~

道行(みちゆきとは古典芸能の文章技法。登場人物が移動する途中に出合う旅の情景を読み込み、自らの心情を表します。
ワークショップでは20代から60代までの参加者15名が、自分ではない誰かや何かになり、実際にりゅーとぴあ周辺を歩いてオリジナルの道行を作り、発表しました。

(2025年6月22日 取材・文/本間千英子 撮影/松永由佳)

「自分ではない何か」になって風景から気持ちを読み解く「道行

ワークショップの最初はまず、木ノ下さんによる「道行」レクチャーから。

日本の古典は道行の文学と話す木ノ下さんは、8世紀初めにまとめられた現存する日本最古の歴史書・文芸書『古事記』の須佐之男命と日本武尊の旅をはじめ、平安時代から栄えた旅芸人の語り芸・説教節の『丸』、能『安宅』や浄瑠璃『心中天網島』などを紹介しました。


日本に道行の文学が多い理由として心と外の世界が同通しているという日本の考え方が根底にあり、能に顕著」と木ノ下さん
心の在り方が敏感になっていると普段の景色が違って見える。この感覚で古典を読むと合点がいきます。風景描写は気持ちの描写。読み手が風景から気持ちを読み解いていく。景色と内面がシームレスに移り変わるのが日本の古典の典型です」。

自分以外の「何か」になって周囲を描写しよう


続いてはワークショップのルール説明です。
今回のルートは、りゅーとぴあ2Fから、らせん状のスロープがある空中庭園を見ながら遊歩道を進み、新潟県政記念館前に通じる階段を下り、白山公園東堀口から公園内へ。ひょうたん池の橋を渡ってりゅーとぴあへと戻り、空中庭園にある噴水がゴールです。

ポイントは「自分以外の誰かになって風景を描写すること」という木ノ下さん。
ドラマを含んでいるキャラクター、例えば失恋した人ならこの風景がどんな風に見えるのか、想像しながら歩くと楽しいですよ。キャラクターは自分から遠い境遇や設定の人の方が描きやすいです」というアドバイスも。


また「感情景」(感情と情景を一つにした木ノ下さんの造語)については、「例えば《さみしい私は柳の木を右に見て》はNGですが《さみしい柳の木を私は右に見て》はOK」と具体例で説明します。さらに、道行のタイトルは「○○(キャラクター)の道行」として、最後は「はや○○(場所)に着きにけり」を2回繰り返して締めること、というルールを説明します。



「キャラクターはどう考えて決めればいいんでしょう?」という参加者の質問に、「人間以外でもかまわないし、何かの霊でもいいですよ」と木ノ下さん。

五感を総動員して、いざ「道行」に挑戦! 

今回の「道行」は、ルートを全員でいったん歩き、そこからは個々で再度ルートを辿ります。

景色を見るだけでなく、音を聞き、匂いを嗅ぐ。気温や風などを皮膚感覚でとらえるなど、五感を総動員してくださいね」という木ノ下さんの言葉に促され、参加者たちはそれぞれ歩き出しました。

周囲を見回し、熱心にメモをとる参加者たち。友人と二人で参加した方たちは、白山公園内で「どうしたらいいか分からない……」と悩みながらあちらこちらに視線を走らせています。


あたりを見回し「景色ばっかり並べてしまう。難しい」とつぶやく女性参加者もいれば、石燈籠の前で熱心に何かを書く男性参加者もいました。

歩き終えたら最初のレクチャー会場に戻り、「道行」の仕上げにかかります。
びっしりと書かれた手元のメモを見ながら、参加者全員が真剣に取り組んでいました。

道行」創作は世界を新しく見る手段

発表では、最初にタイトルを伏せたまま、書いた本人が内容を読み上げ、それを聞いた参加者たちが「一体誰(なに)の道行か」を予想。最後に発表者が「誰に、何になったか」を明かして、木ノ下さんから講評を受けます。

自分が今履いている靴、亡くなったペットの霊、巣立ったばかりのひな鳥、過去の越後の農民、現在活躍中のお笑い芸人、戦争の不安を実感している人、亡くなった自分の母、歴史上の人物、工事中の建造物など……参加者がなった「誰か/何か」はバラエティに富んでいました。

無機物の中に生物を配して際立たせている
水の縁語を上手に使い、道行全体を大きな架空の水の流れとして表現しましたね
韻を踏んでいてリズムがいいですね
聞いていると絵が浮かぶ。昔の絵本を読んでいるようで、世界がかっちりできあがっていますね
擬音のみで最後まで飽きさせなかったのは巧み
など、それぞれの「道行」の良い部分を取り上げ、温かくコメントした木ノ下さん。

普段見慣れた景色も、誰かになって観察すると発見があります。それは世界を新しくとらえる手段。登場人物の心情を想像しながら演劇を見る感覚に似ていると言えるかもしれません。創作は意外と難しくなく、日常から少し踏み出した先にある。構えずに、書くことにチャレンジしてください。普段の生活が変わり、演劇や能をもっと楽しめることでしょう」という言葉で、中身の濃いワークショップは終了しました。


能と木ノ下歌舞伎ファンの参加者は「道行は初めて作りましたが、とても勉強になりました」と話します。
古典芸能全般、特に歌舞伎が好きで、木ノ下さんの著書『物語の生まれる場所へ』を読んだという男性参加者は、「道行は作れるか不安でしたが、意外とうまくいきました。木ノ下さんの本を読んでから古典の舞台を訪ねるのが楽しいです」。


女性参加者は「道行の創作活動は面白かったです。みんな同じ道を通っているのに、違う作品になるのは驚きでした。今後もこのようなワークショップに出てみたい」と感想を話してくれました。

この記事を書いた人

広報担当 A.O

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