りゅーとぴあ 25年が過ぎて見つけた25の話 特別編Ⅱ

interview

りゅーとぴあコンサートホールの響きは多くのアーティストやお客様から高く評価されていますが、それはホールそのものが「楽器」としてつくられているからです。あの大きな空間で非常に小さな音(ピアニッシモ)がはっきりと聴こえるのは、いったいどんな仕掛けがあるのでしょう。
この謎を知りたくて、真夏の暑い盛りにオンラインで音響設計家・清水寧さんにインタビューをしました。清水さんは、コンサートホール、劇場、能楽堂のほかりゅーとぴあ全体の音響設計をされましたが、今回はコンサートホールに絞ってお話を伺いました。

コンサートホールは見た目が大事

――最初に建築家・長谷川逸子さんとお会いになったのは、いつですか。

長谷川さんがプロポーザル・デザイン・コンペティションで最優秀に選ばれてすぐの時期だったと思います。それ以前にも長谷川さんとは何度か一緒に仕事をしたことがありましたが、音楽専門ホール(コンサートホール)なのですごく楽しみだったことを覚えています。アリーナ型の音楽専門ホールをつくることがコンペの条件でしたが、当時はシューボックス型が主流でした。

(注)アリーナ型は舞台の周りに客席があるホール。シューボックス型は前方が舞台、後方が客席で上から見ると長方形のホール。

どうしたら、アリーナ型のホールで良い演奏をしてもらえるか、ということから考え始めました。長谷川さんは「空間の印象を大事にしたい」とおっしゃっていましたし、私も同じ考えで「ホールに入ったときの第一印象が大事だ」と考えていました。しかし、形の方向性を決めないことには設計が始まりませんので、ヨーロッパのコンサートホールを視察しました。アリーナ型のコンサートホールを実際に見ることで「こういう形にすれば、こういう音になる」というイメージが、設計スタッフ同士で共有できるようになったのです。

音を拡散させる「凸曲面(とつきょくめん)」のデザイン

――コンサートホールの特徴は何でしょうか。

天井と壁が凸曲面(とつきょくめん)で構成されているところです。

(りゅーとぴあホームページ掲載の図を加工)

凸曲面は反射した音があちこちに拡散する性質があります。一方で、デザインの美しさという面では凹曲面(おうきょくめん)のほうが好まれますが、凹曲面は中心に向かって音が集まってしまいます。このような訳で、最初の課題は凸曲面の良さを理解してもらうことでした。舞台の壁、客席ブロックの配置など、全体が凸曲面になるように配置した比嘉さん(当時長谷川逸子建築計画工房のスタッフ)は、とても大変だったと思います。今でもはっきりと覚えているのですが、あるとき比嘉さんと一緒に新潟へ向かっていた新幹線の車内で、比嘉さんはずっとスケッチを描いていました。新潟駅に近づいたころ「こんなんでどうでしょう」と見せられた小さなスケッチは、とても美しく、それまで音響に関して議論していた要素が盛り込まれたコンサートホールでした。これを見たとき、音が舞台から客席へ波のように伝播するイメージが沸きました。そしてこのスケッチが設計の方向性になったのです。

 

図:凸曲面と凹曲面、それぞれの壁に反射した音のイメージ

(黒線が壁、青線は壁に反射した音の伝播)

 

――比嘉さんには、“25の話 #1~#5”でお話を伺いました。コンサートホールの音響設計のために六畳サイズの模型を作って実験をしたそうですね(25の話#3)。

1/10スケールの模型ですね。模型のなかで実際に音を出して確認するのですが、それを聴く人は1/10の大きさになれるわけではないところに実験の難しさがあります。人間が聴きとれる音の範囲は、低音20Hzから高音20kHzまでですが、これが1/10スケールの模型のなかでは音が10倍高くなってしまいます(200Hz~200kHz)。さらに問題なのは、空気中の酸素は高い周波数帯の音を減衰させてしまう(小さくなる)ことです。酸素があると正確なデータが得られないのです。そこで、模型内部の酸素を抜いたうえで音を流して、録音した音の周波数を1/10(元の高さ)に変換して耳で確認しました。だから模型のなかに入るときは酸素ボンベを装着したのですよ!

 

(当時製作された工事のパンフレットに1/10スケールの模型の写真がありました)

 

――まさに命がけの作業ですね!コンサートホールの音響を技術的に説明していただけますか。

一言で言えば、残響と明瞭度のバランスです。楽器から出る直接音(壁や天井に反射しない音)は離れるほど減衰しますので舞台と客席の距離は大事です。また、前のお客様で舞台が隠れてしまうと音のエネルギーが吸収されてしまうので、そうならないように客席の傾斜を急にする必要があります。模型実験で最初にやったことは、客席段床の角度に関する実験で、この結果をもとに長谷川さんが設計を進めてくださったのです。とはいえ、アーティストが素晴らしい演奏をして初めて最高の響きが生まれるわけですから、アーティストが演奏しやすい環境づくり、ということも重要視しました。目指したのは、アーティストから「もう一度来たい」と思ってもらえるコンサートホールです。大規模改修を行った平成29年頃、久しぶりにコンサートホールに入りましたが、ステージ裏に書かれた数多くのサインを見たときは…いやぁ、本当にうれしかったですね。

 

清水寧さん

りゅーとぴあ設計時の所属はヤマハ音響研究所で、東京国際フォーラム、福岡シンフォニーホールのほか数々のホールの音響設計を手掛けられました。

この記事を書いた人

施設・利用課 石川尚朋

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