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りゅーとぴあ広報スタッフの「Concert Report」 Vol.3

2022年6月18日(土)開催 りゅーとぴあ会員限定コンサート Vol.4
「外村理紗 ヴァイオリン・リサイタル」

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会員の皆様に、一流の音楽を格安でお聴きいただきたい!
そんな想いで実現したコンサート。

 割安なチケット料金、今を煌めく音楽家の招聘、会員だけで楽しむ特別感。昨年初めて開催した「りゅーとぴあ会員限定コンサート」は、おかげさまで多くのご支持をいただき、2022年度も継続開催となりました。今年度も3公演を予定しており、今回は6月18日(土)に行われた「外村理紗ヴァイオリン・リサイタル」の模様をお届けします。

特別な楽器 ストラディヴァリウス「ジュピター」

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1722年製 ストラディヴァリウス「ジュピター」(外村さん撮影)

 イタリアは、とてつもない二人の天才を輩出しています。一人はレオナルド・ダ・ヴィンチ。フランスを訪れた際にルーブル美術館で「モナ・リザ」を観てきましたが、「スフマート」と呼ばれるぼかしの技法で描かれたこの絵画。正直、ネットや写真で見ても「ぼんやりしている」「謎めいた絵」との感想でしたが、間近で観ると印象がまるで違います。柔らかな微笑みとは対照的に、相手の心を見透かしたような鋭い目。ごく薄い絵の具を幾層にも塗り重ねた繊細な技。表情にも技法にも圧倒されました。

 もう一人は稀代の名工、アントニオ・ストラディヴァリ。2人の息子と共にヴァイオリンやヴィオラ、チェロなどの弦楽器を1000挺ほど製作し、そのうち約600挺は今も現存しています。レオナルド・ダ・ヴィンチにとっての≪特別な絵画≫が「モナ・リザ」だとすれば、アントニオ・ストラディヴァリにも当然ながら≪特別な楽器≫が存在します。その一つこそ、今回のリサイタルで外村さんが演奏した、1722年製のストラディヴァリウス「ジュピター」でしょう。音の芯、深さ、鳴りとすべてが異次元で、300年の時を超えた人類の至宝です。(ちなみにストラディヴァリウスには、「ダ・ヴィンチ」の名を冠した楽器もあります)

「北欧のおとぎ話」グリーグのヴァイオリン・ソナタ 第3番

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ノルウェーのフィヨルド

 1曲目はグリーグ作曲の『ヴァイオリン・ソナタ』第3番。名曲と言われるものの、新潟での演奏機会はあまりありません。ヴァイオリン好きな私がこの曲の印象を一言で表すと「北欧のおとぎ話」。ヨーロッパ北部の自然や風土を彷彿とさせる優雅な曲想と、ノルウェーの民謡調の旋律を巧みに融合した名作です。

 私は第1楽章の冒頭からノックアウトされました。2001年生まれの若い外村さんですから、「元気溌剌な演奏を繰り広げるだろう」と勝手に想像していたものの、予想は大外れ。もし目を瞑りながら聴いていれば、「どこぞの巨匠が弾いてるの?」と勘違いしたことでしょう。低音で奏する激しい冒頭の重厚感は、それほどのインパクトでした。

 次に心を奪われたのは第2楽章。ちなみにこの楽章、ボロディンが作曲した弦楽四重奏曲第2番の『夜想曲』と、ゴダールが作曲した『ジョスランの子守歌』と合わせ、個人的には「世界一美しいクラシックの3大旋律」だと思っています。沼沢さんの透明なピアノの煌めきは、まるでフィヨルドの水面に反射した光の粒のよう。それに続く儚い旋律を、外村さんが力まず冷静に、流れるように歌い上げました。

 エネルギッシュな第3楽章は、ピチカート(弦を指で弾く奏法)やスピッカート(弦の上で弓を跳ばして弾く奏法)、フラジオ(指の腹の部分を弦に置き倍音を鳴らす奏法)といった特殊奏法が続々と登場。テンポが速い中でも難易度の高い技を完璧に決め、次々に変化する音色とスリルを存分に楽しませてくれました。

 熱演を終えた後、前半最後は同じく北欧の作曲家シベリウスの小品を5曲。事前のインタビューにおいて「新潟のお客様へご紹介したい、とっておきの曲」と外村さんが話されていた通り、どれもが珠玉の作品ばかり。このような「知られざる名曲」と出会えるのも、リサイタルならではの醍醐味です。

銘器の潜在能力を極限にまで高めた、フランクのヴァイオリン・ソナタ

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公演の様子

 後半は、フランク作曲の『ヴァイオリン・ソナタ』から。今年はフランク生誕200年の記念イヤーですので、ぜひ弾いてくださいと外村さんにお願いしました。循環形式と呼ばれる、一つの主題が複数の楽章に現れるフランク独自の作曲技法が特徴で、友人でありヴァイオリニストのイザイの結婚祝いとして献呈されたこの曲。演奏者を含め、全員の心を必ず高揚させてくれる名曲中の名曲です。

 第1楽章は、ゆったりとしたテンポでスタート。ここでも外村さんの落ち着きを感じます。その後は流麗なレガート(音をなめらかに繋げて演奏する奏法)を効かせながら、銘器「ジュピター」のポテンシャルを究極にまで高めた美音で聴衆を魅了。艶やかな音色が、天上から降り注ぎました。

 第2楽章は沼沢さんの鬼気迫るピアノに外村さんも徐々に高揚し、丁々発止の激しい掛け合いに。続く第3楽章では、孤独なピアノが前楽章の情熱的な世界を一変させ、翳りを滲ませたヴァイオリンが幻想的な世界へと誘いました。

 第4楽章は、幸福感に満ちたヴァイオリンとピアノの対話から。第1楽章から第3楽章までの主題が次々と回想し進行する中で、二人の秀抜な表現力によりドラマティックな緊張感を生み出しつつ、様々な苦難を乗り越えた果ての幸福を思わせる輝かしいフィナーレを迎えました。

圧巻の技巧と華やかさで魅せたサン=サーンスの「ロンカプ」

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終演後のお二人 

 ここで終演しても良いほどの充実感でしたが、最後にサン=サーンスの『序奏とロンド・カプリチオーソ』が演奏されました。ソナタの後に小品で終わるのも意外な気がしましたが、外村さん曰く「人生の節目で演奏してきた大切な曲」とのこと。その理由を聞いて曲順にも納得しました。華やかな高音から豊かに響く低音、繊細・可憐な音から突き刺すような鋭い音まで多彩。圧巻の技巧と華やかさでした。盛大な拍手に応えて、アンコールはエルガーの『愛の挨拶』を披露。清々しくリサイタルは幕を閉じました。

 今回来場された方は、新潟で若き日の外村さんの演奏を聴いたことが、遠くない将来に勲章となることでしょう。残念ながらお越しいただけなかった方も、次の機会にはぜひこの興奮を味わっていただきたいです。次回(8月26日(金)19時開演)の「りゅーとぴあ会員限定コンサート」は、国内最難関のコンクールの一つである「日本音楽コンクール」を制し、シャネルも支援する逸材「山縣美季ピアノ・リサイタル」をお贈りします。

 ぜひ、足をお運びください!

【広報スタッフ Nより】

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