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Special interview 「石丸由佳」

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CDアルバム「死の舞踏~悪魔のパイプオルガン」の発売を記念して開催される、りゅーとぴあ専属オルガニスト石丸由佳オルガン・リサイタル「死の舞踏」~悪魔のパイプオルガン~。公演に先立ち、なぜこのような怖いタイトルでCD制作やリサイタルをすることになったのか、お話を聞きました。

 

――10月8日(土)にオルガン・リサイタルが開催されます。今回は「死の舞踏~悪魔のパイプオルガン~」ということで、ちょっと怖いテーマのリサイタルですね。このテーマになさった理由を教えてください。

石丸そうですね、それは私のパイプオルガンとの出会いから始まるので、だいぶ遡ってお話しすることになります。本物のオルガンを初めて聴いたのはりゅーとぴあなんですが、オルガンの世界に入ったきっかけが二つあります。

中学時代は吹奏楽部に所属していました。管楽器の合奏に魅力を感じて、いろんな楽器の音で合奏するのがとにかく楽しくて、部長をするくらいハマってやっていたんです。でもそこまで強い学校ではなかったから、理想的な響きはあるけど、なかなかうまく表現できないこともありました。この時にこの音が欲しいな!と自分の中では思ってもその音が出ないことだったり、自分が吹いているのは1つの旋律だけで、高い音も低い音も出したいのにと、もどかしさを感じていたんです。

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吹奏楽部(イメージ写真)

そんな時に授業でオルガン演奏の映像を見て、『小フーガ ト短調』でしたが、いろんな旋律を一人で演奏していることに衝撃を受けて、これなら【ひとり吹奏楽】ができるなと思ったんです。

もう一つは、ある時りゅーとぴあに当時の専属オルガニストの演奏を聴きに来まして、こんなにすごいパイプオルガンが身近にあるのは本当に素晴らしいことだなと。そして満席というわけではなかったので勿体無いなぁ、もっとたくさんの人に聞いてもらいたい!と強く感じたんです。その二つの思いが合わさって、使命感というか、オルガンの楽しさをいろんな人に知ってもらいたい、というのが私がオルガンの世界に入った原点なんです。

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りゅーとぴあのパイプオルガン

ただ、教会音楽という、ヨーロッパではルーツとなっているところとは違う、教会とは関係のないところからオルガンに出会ってその世界に入ったので、東京藝大で本当のオルガンの姿を学んでいったという感じなんです。そして2019年に出したCDは「スターウォーズ」やホルストの「惑星」など、オーケストラ曲だったりしたので、ヨーロッパの教会音楽から見ると邪道では?とずっと感じていました。

でも最近、オルガンが教会音楽に入る前の歴史を調べていて、紀元前からあるオルガンが教会に入ってきたのは最近のことで、聖なる楽器になる前の姿があったんですね。実は長い間、戦いのときのお囃子のように使われていたり、劇場などエンターテイメントの場で楽しまれていたんです。

そういうことを知った時に、自分がやっていることも間違ってなかったなと、罪悪感を払しょくしてくれた!という感覚がありました。

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ドイツ、アルンシュタットのバッハ教会にて

人が楽しむことだったり、戦いの場で使われていたり、教会にとっては品がなくてふさわしくないと思われてきたんじゃないかな?というような、そんなちょっと怖い頃のオルガンを知ってもらおうと、今回はそちらの顔に焦点を当てたプログラムにしました。そしてやっぱり【ひとり吹奏楽】をやりたくて、『SF交響ファンタジー』など、オーケストラ曲を1台のオルガンで演奏したいという思いも込めました。

――「悪魔のパイプオルガン」は、石丸さんのオルガンとの原点に帰るようなテーマなんですね。

石丸“悪魔”というタイトルをつけて良かったのかと、それもいまだに後ろめたいところもあるんですが(笑)、悪魔というより魅惑的という意味で捉えていただけるといいのかなと。そちらに進みたくないのにどうしても進んでしまう、悪魔ってそういった世界に引き込む存在として描かれています。心奪われてしまうものというような。

今回悪魔に関する“音楽”や“言葉”なども調べました。サン=サーンスの『死の舞踏』には、モチーフとしてグレゴリオ聖歌の『怒りの日』のメロディや、アランの『フリギア旋法』も使われています。またタイトルの通り、中世のペストが流行した時の【死の舞踏】という芸術的モチーフがテーマになっています。

そして【メメント・モリ(死を忘れるな)】という言葉。死が身近なもので警句として使われていて、でもどんなに偉い王様や司教様でもみんな平等に死が訪れるというところが、逆にちょっとした救いになっていたのではと思います。『死に向かって急げ』という、タイトルの怖い曲もありますが、聴いてみると楽しくて、面白い、可愛らしい曲なんです。なんでこんなタイトルなのかなと不思議なんですが、昔の人の死に対する考え方が、怖いだけじゃなくてもしかしてちょっと希望を持ってたりするのかな、など、色々考えさせられるなと思いました。“悪魔”や“死”というものが、ただ怖い、だけではないこと。ホラーではないというところが伝わるといいですね。

――今回はCD発売記念のリサイタルです。ここりゅーとぴあでの録音でしたが、その時の様子などを教えてください。

石丸:りゅーとぴあでCD録音するのは初でした。りゅーとぴあのオルガンは元気の良い、強い性格のオルガンなんです!そんなオルガンから今回の音色に合う音を選んだり、録音では普段の聞こえ方とはまた違うので、そういったところを気をつけてチェックしながら行いました。3日間朝から夜までの録音というスケジュールで、録音するときは集中力が必要なんですが、でも”ホーム”なのでノンストレスでできました。

CDはリサイタルの直前、10月5日(水)に発売です。今回は漫画家の高浜寛先生にジャケットを描いていただきました。ぜひそちらもご覧くださいね。

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高浜寛先生作のCDジャケット

――今回のリサイタルで特におすすめの曲はなんでしょう?

石丸もちろんタイトルになっている『死の舞踏』は、りゅーとぴあのオルガンの音色を聴いてもらうために、色々とレジストレーションを工夫しているので、そういうところを面白いなあと聴いてもらいたいですね。

あとは特殊奏法ですね。実はお客さまの前で、こんなにたくさん特殊奏法を使って演奏するのは初めてです。ピアノでも使われているクラスター奏法や、電源を切る、おもりを使うなど、なかなか見られるものではないと思うので、今回はスクリーンでもしっかりご説明しながら、見ていただこうと思います。特殊奏法が使われているのは『怒りの日』、おもりを使うのが『死に向かって急げ』、そしてゴジラの足音で、ペダルのクラスター奏法を使う『SF交響ファンタジー』です。楽しみにしていてくださいね。

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リサイタルをしたストラスブール大聖堂にて

――最後にメッセージをお願いします。

石丸:今回はバッハの大曲を一つと、ジャン・アランのオルガンのためのオリジナル曲を演奏しますが、あとは編曲作品です。編曲作品というと、オルガンのための曲ではないのか、と思われるかもしれないのですが、オルガンのルーツを辿ると、声楽曲を1人で弾くために使われていたりもしていました。声は1人ひとつしか出せないので、声をあわせて弾きたかったから鍵盤が生まれた歴史もあります。編曲も決して邪道ではないんです。

またシャルル・グノー「操り人形の葬送行進曲」を編曲したトーマス・ベストは、オーケストラを毎日呼べないホールのために、オルガンで演奏したらいつでも聴ける!ということで編曲の楽譜をたくさん残しているんです。ビルトゥオーゾとしても有名で、編曲作品は無理をしないといけないんですよね、オーケストラ何十人分を1人で演奏するので。かなりテクニック的にも難しいことも多いんですけど。でもベストはそれを易々とやってのけて、エンターテイナーとしてのオルガニストということで当時19世紀のイギリスでとても人気でした。

ということで、【ひとり吹奏楽】=オルガンから始まっている私にとっては、繰り返しになりますが、編曲作品を演奏することも邪道ではないのです(笑)。そんなオルガンのいろんな顔を知っていただければと思います。

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