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杉原邦生をひもとく(前編)―10/30(土)上演 南沢奈央×濱田龍臣 KUNIO10「更地」演出家インタビュー

杉原邦生をひもとく(前編)―10/30(土)上演 南沢奈央×濱田龍臣 KUNIO10「更地」演出家インタビューの画像

太田省吾の代表作である『更地』を2012年に京都で上演し、9年越しで再演を実現する演出家・美術家の杉原邦生さん。京都公演を終え、10月30日(土)にりゅーとぴあ・劇場で上演する南沢奈央×濱田龍臣 KUNIO10「更地」を迎えるにあたり、作品への想い、演出や美術について考えていることを伺いました。

※インタビュー中のみマスクを外しています。

恩師の太田省吾さんの作品を上演するのは、僕にとって特別でした

―京都公演を終えて、お気持ちをお聞かせください。

京都公演の会場である京都芸術劇場 春秋座は、僕の母校である京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)のキャンパス内にある劇場です。『更地』の作者である太田省吾さんは当時、僕の在籍していた映像・舞台芸術学科(当時)の学科長だったので、まさに僕に演劇を教えてくれた恩師です。そんな恩師の作品を母校で上演できるというのは、やはり僕にとって特別でしたし、感無量ですね。

京都公演の初日を客席で観ていて、これなら太田さん認めてくれるんじゃないかな、とふと思いました。

 

―それまでは認められていなかった?

いえ、そういうわけではないんです。太田さんは僕の演出を一番初めに認めてくださったアーティストだったので。

2012年KUNIO10『更地』初演、2019年KUNIO14『水の駅』に続いて、太田さんの作品を演出するのは今回が3度目ですが、これまでよりもグッと深度が上げられたというか、杉原邦生による太田省吾作品として力強いものになっている気がしたし、おこがましくも、作品に新しい光を当てることができた気がしたんです。だから、これなら太田さんも認めてくれるのではという気がしたんだと思います。少しでも太田さんに恩返しできたら、という想いがずっとあるんです。太田作品を自分なりの形で繋いでいくことが、僕にとっての恩返しなんです。

そういった意味でも、今回の『更地』と、12月に上演するさいたまゴールド・シアター最終公演『水の駅』は僕にとって重要なライフワークのひとつになっていますね。

杉原邦生をひもとく(前編)―10/30(土)上演 南沢奈央×濱田龍臣 KUNIO10「更地」演出家インタビューの画像

太田省吾の台詞を自然体で言える俳優たち

―南沢奈央さんと濱田龍臣さんとの稽古はいかがでしたか?

たっちゃん(濱田龍臣さん)は『オレステスとピュラデス』(2020年、KAAT神奈川芸術劇場)の時に稽古場では見せなかった感じが出ていますね。まずは、セリフに苦戦していました(笑)。太田さんの言葉って僕たちがいま日常で使っている言葉よりも少し詩的というか、現代の若者にとっては古風と感じる部分があると思うんです。さらにシーンごとに言い回しが微妙に変わったりするんですよ。だから余計に難しいんだと思います。

たっちゃんにとって、実年齢と役の年齢(初老という設定)に差があったことも難しい部分だったのではないかと思います。僕自身も役の年齢との差がだいぶあるので、完全に理解しているかと聞かれると分からないですけど、僕なりの経験や解釈でディスカッションを続けることで、彼が役のことを理解して、俳優として新しい情報や感覚を得ていくのが見えました。そうやって、どんどん吸収していけるところがとても良いですね。

あと、奈央ちゃん(南沢奈央さん)もそうなんですけど、「太田さんの言葉を、こんなに若い世代の俳優が自然体で、自分の言葉のように話すことができるんだ」という驚きがありました。太田さんのセリフって、さっき言ったような文体の特徴もあるし、多くを語らないからかなり言いづらいというか、難しい言葉だと思うんです。でも、彼らの身体からはスッとその言葉たちが出てくる。言葉を自分のものとして自由に表現できている。おそらく、そのすごさに観客の皆さんが気づかないくらい二人は自然体で演じていると思います。これって、実はとてもすごいことなんじゃないかと思うんです。

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芝居のことだけを考えられる関係性は貴重

―稽古前と稽古後で俳優への印象の変化はありましたか?

そんなに変わっていないですね。
奈央ちゃんは今回初めてご一緒させてもらっていますが、やはり舞台で存在感を放っています。彼女がたっちゃんよりも少し歳上ということもありますが、要所要所でしっかり芝居全体を引っ張ってくれている。戯曲上だと年齢は「男」のほうが2歳上なんですけど、僕の演出では「お姉さん妻と弟夫」のイメージがあったので、いいバランスになっていると思います。

稽古場での奈央ちゃんはとてもクレバーです。言葉数は少ないんですけど、演出家に投げかけてくる疑問や提案がシンプルで余計なものがない。きちんと戯曲の本質を掴んでいくし、それを自分が表現するために必要な情報を分かっているんじゃないかと思います。たっちゃんもそうなんですけど、こんなにも芝居のことだけを考えられる関係性がつくれているのは貴重だなと思います。

二人とも、僕の想像以上の成果を現時点で出してくれているので、公演を重ねていく中でさらに良くなっていくと思います。京都公演の2ステージだけでも二人の芝居から変化と深化を感じられたので、新潟公演はもっともっと良くなるはずです。そう確信しています。

 

後編に続く―

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