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墨絵と油絵、両方の世界観を、音楽で楽しむ

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音楽企画課の榎本広樹さんにお話しを聞きました。

―― 榎本さん、こんにちは。

榎本 よろしくお願いします。突然ですが、墨絵と油絵、どちらがお好きですか?

―― 難しい質問ですね。それぞれに良さがあります。

榎本 確かに。墨絵の一色の濃淡、線と点という非常に限られた素材で描かれる迫力は凄まじいものがある一方、油絵も、例えばゴッホの「ひまわり」のように、画面から生命が躍り出るかのような表現にも息を飲みます。

―― はい。

榎本 今日ご紹介するのは、墨絵と油絵、両方の世界観を楽しめる音楽公演。10月29日開演、東京交響楽団 第103回新潟定期演奏会です。

―― 面白いですね。墨絵と油絵、両極端です。

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ダニエル・ビャルナソン(指揮)

榎本 この日登場する指揮者ダニエル・ビャルナソンさんは、大西洋北部の島国アイスランドの出身。アイスランドと言えば火山が多いことでも有名ですね。また、北極圏に届こうかという高緯度に位置していることから、火と氷の国とも言われています。ほら、ここにも両極端。

―― 高緯度ということは、オーロラを見ることができる?

榎本 そのようです。オーロラも見えるし、夜も長い。

ビャルナソンさんは作曲家でもあり、この日の一曲目は「ブロウ・ブライト」という、自身が2013年に作曲した曲を指揮します。彼の他の作品を通じても言えることなのですが、彼の音楽はまるで白夜のような、非常に限られた素材で作られています。沈黙から生まれて、ある瞬間は勢いを得たとしても最後は沈黙に帰っていくような作風なんですね。そこに静かな抒情がある。

―― まるで墨絵の世界だと。

榎本 そうなんです。現代の作曲家ですが、意外に聴きやすい点もおすすめです。

2曲目はソビエト時代の大作曲家ショスタコーヴィチが1948年に作曲したヴァイオリン協奏曲。実に聴き応えのある傑作です。独奏ヴァイオリンが終始オーケストラをリードして、深い抒情を歌い上げる。色合いとしては、決して原色ぎらぎらではないけれど、墨絵と油絵の中間くらいな感じです。

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神尾真由子(ヴァイオリン)

―― 独奏ヴァイオリンの神尾真由子さんが美しいです。

榎本 美しいだけじゃないですよ。2007年にモスクワで行われたチャイコフスキー国際コンクールで優勝し、以来ずっと世界の名指揮者と共演を重ねている実力派です。子育て中のお母さんでもある。充実している彼女が弾くこのヴァイオリン協奏曲、実に楽しみです。

―― 早く聴きたい!

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榎本 そしてこの日のプログラムでメインとなるのが、ロシアの大作曲家で、オーケストラを極彩色豊かに鳴らすことにかけては古今東西屈指の存在であったリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェエラザード」です。

―― 「シェエラザード」というと、千夜一夜物語の?

榎本 そうです。1888年に作曲されたこの交響組曲は、千夜一夜の語り手、シェエラザードの物語をテーマとしていて、音楽によって描かれた血湧き肉躍る冒険活劇。絢爛豪華な色彩にいろどられた名作です。

この日のプログラムは一見、何のつながりも見いだせない3曲が並んでいるように見えますが、「色彩」という言葉を鍵にすると、墨絵から中間を通って油絵のような極彩色に至る、一本すじが通ったプログラムなのです。

しかもですよ。1曲目の作曲は2013年。そこから65年、時をさかのぼって2曲目が作られ、さらにそこから60年さかのぼって1曲目が作られている。1曲目から約60年ずつさかのぼるように組まれています。このプログラミングが実に憎いじゃないですか。

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―― さすがですね、ビャルナソンさん。そして演奏はもちろん東京交響楽団。

榎本 りゅーとぴあを準フランチャイズとする我らがオーケストラ。独立独歩の自主オーケストラでありながら、数々の現代曲の初演を行ない、その精密さには定評があります。墨絵の迫力も、ショスタコーヴィチの激情も、シェエラザードの極彩色も余すところなく聴かせてくれるでしょう。

―― 交響組曲「シェエラザード」は新潟定期初登場です。

榎本 そう。派手で楽しくて有名な曲ですから、初登場は意外なんですが。この機会をお聴き逃しなく、ということでございます。

―― 榎本さん、ありがとうございました。

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